第53話 社長の仕事は、”机を拭く”こと。

「ソノダさん、3時の掃除をやりはじめたら、社員の方から声をかけてくれるようになりました。」

ー顧問先に数か月前に赴任してきた課長の言葉です。

見せかけの経営参画

この会社は、事業拡大に対応するために、生産性の向上を図ろうということになり、新任課長が中心となって、社員のアイデアを拾い集めるための会議を設定しました。ところが、「どんなことでもいいから、恥ずかしがらずに・・・」と発言を促しても、皆がうつむいて、誰ひとりとして発言しませんでした。

なぜなら、この現場では、前任の課長の”見せかけの経営参画活動”が、いまだに社員の心の中に暗い影を落としていたからです。

”見せかけの経営参画”とは、会社が決めたコスト削減策や事業計画を、決められた枠組み通りに実行するための勉強会や小集団活動だけを歓迎する管理手法でした。

実行の枠組みの見直しを提案する社員や、計画や対策自体の変更につながるアイデアを持つ社員には、「非協力的な社員」「よからぬ事を考えている社員」というレッテルを貼り、経営者の意向に沿って現場が動くように、管理していたのです。

すなわち、前任者は、「是非、経営参画を!」と社員を鼓舞しつつ、心の奥底にある、計画・立案する人は、経営者やマネジメント層であり、社員は、言われたとおりに実行する人という価値観(マネジメント観)を、決して変えようとしなかったのです。

対立を招いた階層意識

当たり前のことですが、「計画・立案する人」と「実行する人」という階層意識が根深い組織においては、社員は「そもそも計画や対策自体が無謀・無能だった・・・」と経営者やマネジメント層を責め、経営者やマネジメントは「社員はほんとうにワガママで協力してくれない」と社員を責め続けることになります。

余談になりますが、意図的に労使対立の構造を作り出そうとしている労働組合が(世の中の労働組合が全部こうした組合というわけではありません)、この階層意識の浸透に乗じて、階層意識の解消を叫びながら、その実、経営者・マネジメント層と社員・労働組合員との対立を扇動し、ストライキなどの労使紛争を引き起こす危険性も認識しておかなければなりません。社外労働組合も存在します。労使紛争なんて無縁だ・・・とたかをくくっている中小企業の社長こそ、要注意なのです。

経営者からはじめる~机を拭きましょう

さて、階層意識を無くすためには、どうすればいいのでしょうか。答えは簡単です。社員にも「計画・立案に参画してもらい」、経営者・マネジメント層も「実行に参画する」のです。

しかし、階層意識にどっぷりつかっている社員に、「どんなアイデアでもいい。事業遂行のために知恵を出してくれ・・・」とお願いしても、最初からその言葉を信じて、アイデアを発言してくれる社員は皆無に等しいでしょう。顧問先の課長が赴任直後に直面した壁はこれだったのです。

ならば、「アイデアを出してくれ」とお願いする前に、経営者やマネジメント層が、先に「実行に参画」して、経営参画への呼びかけが本気であることを、身をもって示すしかないのです。

実は、顧問先の職場では、書類の整理整頓が全くできておらず、社員が最新の資料を探すのに無駄な時間を要したり、古いデータに基づいて業務を遂行したために、業務が停滞するという状況が、前任者の頃から、長い間放置されていました。職場の5S徹底が、誰がみても率先して取り組むべき業務改善だったのです。

そこで、私は、「午後3時になったら、よほど忙しくない限り、課長を含むマネジメント層全員で事務所の清掃をしてください。」とお伝えしました。そして、「清掃しながら、書類の整理整頓もやってくださいね・・・」とお願いしました。

マネジメント層が掃除にいそしむ姿に、社員たちがびっくりしたのは言うまでもありません。これまでは、日がな一日、デスクに座り、自分たちを監視しているようにしか感じれれなかったマネジメント層が、片手に雑巾、片手にマジックリンを持ちながら、机を拭いたり、無造作に積まれた書類の山の仕訳をしはじめたのですから。

掃除をしていると、「なぜ課長が掃除なんかしているのですか・・・?」と、とある社員が、新任課長に尋ねて来たのです。「いや、職場が整理整頓されていると、皆が気持ち良く、無駄なく働けるよね・・・という話になって・・・」。するとその社員が、「こういう順番で書類整理すると、わかりやすいかもしれません」とさりげなくアイデアを出してくれたのです。

課長が3時に机を拭く・・・というささいな取り組みが発端となって、眠っていた社員のアイデアが少しずつ言葉になって、職場がどんどん働きやすい環境になって、マネジメント層の本気度を社員が肌で感じるようになったのです。

社長、社員に経営参画してもらうために、どうやって、社長の本気度を示しますか?